第2章〜〜変化〜〜


月の光。それにはさまざまな力がある。

時には力強く耀き、時には一切の光も放たない。

月は太陽の光を反射している。

故に人々は月に太陽の面影を無意識に感じ、温かみのある光だとそれを崇める。

故に、人は自力で耀けぬ月の情けなさに絶望する。

結局、月の存在価値はそこで決められてしまう。

月のさまざまな力というのは、つまり、月の人に与える存在意義という価値観の変動だ。

毎日姿を変え、現れては消える幻。

人の心をひきつけてはかき乱す誘惑。

幻惑という言葉は、それこそ月に当てはまる言葉だといえる。



―記憶―             






ー1ー

 

 

 


狐霊はうっすら目をあけた。まず見えたのは、白い天井。

その空間は明るかった。頭はまだぼやけていたが、情報処理能力をフルで活用して現状を把握する。

消毒液のにおいがした。次になんとなく違和感がある左腕を見てみる。

そこには針が刺さっていた。どんな小学生にだって分かる、病院内の風景だった。

「ん・・・・・・ぅ」

と思わず声が漏れる。

よくよく目を凝らしてみると、看護師の人が信じられないものでも見るような目で自分を見ていた。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・失礼な。

「院長!いんちょ―――――――――!!」

一気に目が覚めた。いきなり大声で叫ばれたのだから当然の事だ。

「え?ちょっ・・・ぅえ?」

「起きちゃダメです!もーちょっとガマーン!!」

何様なんだよあんたはぁぁぁ という心の叫びはとどかず、言われるままにベッドで横になった。

暫くすると、院長的な中年のオジサンが現れた。

なんだか院長とかやるよりも、お菓子やでパティシエやってる方が似合いそうだ。

「気分はどうですか?」

「あー・・・えー・・・このまま退院しても問題無さそうな気分です。」

正直な気持ちを率直に言ってみた。



あっはっはっ。そいつはいい。でも、精密検査をするまで病院からは出しませんよ。」

「まぁ。そうでしょうね。」

「うん、じゃぁくれぐれも安静にね。」

そういって院長は部屋を出て行った。と思ったのだが、院長が出て行った後すぐに

3人ほど人が部屋に入ってきた。

しかも、すごい勢いで叫びながら。

「狐霊ぁぁぁぁああああぁあぁぁぁああ!!!!」

「うえぇぇぇぇぇぇぇえぇええええええぇぇぇぇ!!!」

一人目は姉の唯衣。二人目は母の小雪。三人目は透だった。

「痛い痛い痛い痛い痛ぐぇ!姉さ゛ん゛っっっ首じめ゛るのやめっんっうぁっっ

首しめるのダメだからって耳に息吹くなぁぁぁそれは反則だ!

全員でよってたかってボクを潰す気なのか!!と叫ぼうとして不意にその光景に違和感を覚えた。

(何か・・・・・・おかしくないか・・・・・・?)

「姉さん・・・何か、えーと、なんてゆーか・・・老けたね。」

「なにおう!これでもまだ未成年だぞ!!とゆーよりほとんど成長してない狐霊の方が悪い!」

よくよく見てみると、唯衣は昨日会った時と比べて体が全体的に成長している。透も同じ状態だった。

「うん?まさか狐霊気づいてないのか?というか、知らされていないのか?」

透は真顔で狐霊に話す。

「ん。うすうす感づいてはいたケド、とりあえず整理させてほしい。」



驚く看護師。透らの反応。そして彼らの成長速度。

「多分ボクはそーとー長い間意識不明で重症患者って扱いだったんだろうね。

この部屋が個室であるところからも容易に想像できる。あとは姉さんのセリフ。

『これでもまだ未成年』という言葉から長く見積もってもボクの眠っていた期間は

3〜5年くらいかな?」

淡々と言葉を紡ぐ狐霊。それを見た透は関心半分呆れ半分で苦笑を浮かべる。

「ったく。相変わらずだな狐霊。性格にはお前が眠っていたのは3年とちょっとだ。

今日は3月27日だぜ。」

「3年と1週間か。・・・・・・うーん長いなぁ。」

頭をポリポリと掻きながら狐霊はそんなことを考える・

それを見ていた透は一瞬ハッと何かに気づいたかのような真剣なまなざしになった。

そして、その視線の先にあるものは当然かもしれないが狐霊だ。

「何?顔に何かついてる?」

何気ない気持ちでそう訪ねた狐霊だったが、透は狐霊にとって人生で最も驚くべき返事をしてきた。

「いや、なんつーかアレだ。こうして改めてみると・・・

・・・・・・・・・狐霊も女の子らしくなったなぁーと思って。」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・は?」

「いや、『は?』じゃなくて。改めてみると狐霊も女の子らしくなったなーと。三年前と比べて。」





「いやいやいやいや。まずどこをどう見たらボクは女の子らしく見られるのさ。

戸籍上は男のはずだよね?」

「ンなコト知ってるよ。ただ、純粋に感想を述べただけじゃんかよ。」

「質問に答えてください!!」

「うるせェな。顔立ちとか、髪の長さとかだよ!パッと見男だとは区別つかねぇ姿だぞお前。

つかすぐ気づけよ。」

言われて再び自分の髪に触れてみる。確かに髪の感触は姉、唯衣のものみたいにサラサラしていた。

次に長さを調べるために、生え際の部分からゆっくりと下へ向かって手を降ろす。長さは腰部まで。

約60cmくらいだ。

「・・・・・・母さん。手鏡持ってるでしょ。」

「あら、よく私が手鏡持っているなんて分かったわね。」

そう言って小雪は手鏡を取り出した。いつも用意周到だ。

と思いながら、狐霊は手鏡を覗き込んだ。

写っていたのは自分自身をもうならせる姿。

先ほど触れていた髪はどうやら脱色したらしく、白に。いや。銀になっている。

三年間という時間を感じさせるのはその長い何か惹かれる物がある。

追加で変わった顔立ち。まぁ。本ッッッ当によく見ない限りは女性のものです。はい。

全体的に白い肌。いや、むしろ青白い肌。三年間という時間を感じさせる血色の悪さは何か人を

心配させる物がある。



「ボクは低血圧なの?貧血なの?」

「どっちもじゃないかしら?」

狐霊は手鏡を母に返した。

「な?」

と透。

「な?じゃなくて。こんなスゴい豹変振りなのに何で

『改めてよくよく見ると』でないと気がつかないのさ。」

狐霊はとてつもなく疲れたようにうなだれる。

すると透は、

「ん?毎日会いに着てたからあんま違和感無いんだが。」

『ねぇ』

母と姉の同意の声もきれいにはもる。

「なっ!ちょ、毎日?毎日来てくれてたの!?」

狐霊は驚きに目を見開かせる。

それを見た小雪はわずかに微笑んで、

「だって、早く起きてほしいと思うじゃない。いるまでも待っていて、

あなたの目が覚めて、一番最初に会ったのが私達であってほしいと思うじゃない。

今日は時間が遅れたせいで、ここの人に先を越されちゃったけどね。」

小雪の顔は残念そうでありながら、それでもうれしそうな表情を浮かべていた。



それだけ狐霊のことを心配していたのだろう。

「・・・ごめん、母さん。心配かけました。それと・・・・・・ただいま。」

「・・・・・・お帰りなさい。」

「はい。じゃあそろそろ帰りましょうか。もうお昼の時間だし。」

「あぁ、そうだな。」

「じゃあ、検査が終わったら電話ちょうだいね。」

そう言って小雪は立ち上がり、ドアの向こうへと去っていった。

透に唯衣もそれに続く。

「じゃ、お大事に〜。」

と唯衣の声。それを最後にドアがぱたりと音を立てて閉まる。

「・・・・・・・・・・・・(キョロキョロ)」

狐霊は部屋かた誰もいなくなったのを確認して、

「どうなってるんだよコレェェええええ!!!!!」

言う、というより叫ぶというのが妥当な今日この頃であった。

 

★DAZZLE〜第二章(2)〜へ

 ★小説トップへ

inserted by FC2 system