ー2ー

 


(・・・・・・面倒臭い。)

狐霊はただいま精密検査の真っ最中である。

何が面倒臭いかというと、まず、受けなければならない検査の数が15種類あるということ。

次に検査1つにかかる時間が1つを除いてほど20分以上かかるということ。

最後にその20分間とにかくじっとしていなければならないということ。

合計最低5時間を検査に費やす一日。

誰にとっても、こんなものは苦痛以外の何物でもない。

追加で狐霊には気分減退の+α×2があったのだが、それに関しては順を追って説明しよう。






「月銀さん月銀さん検査のお時間でーす。」

いきなりの不意打ち。まさか看護師に名前を間違えられるとは。

でもまぁ。仕方ないよね。フツーは銀って書いてガネなんて読まないもんね。うん。

一人で勝手に納得する狐霊。とりあえずベッドから降りようと思って体を起こしたのだが、

ふと眩暈のような感覚に襲われた気がした。が、狐霊は気のせいだと思いスリッパをはいて、

スックと立ち上がる。――――――――――――――――――――――――――

次に気がついた時には床に倒れ伏していた。顔面を打ったのか、鼻がジンジンと熱を持っている。




「う・・・・・・」

鼻を[左手]で押さえて立ち上がろうとしたのが間違いだった。

左腕の肘の内側には点滴の注射針がささっている。

にも係らず腕を前に引っ張るものだかrた、点滴台はバランスを崩す。

そして、運の悪いことに、手を持たれる台の中で最も重い部分が狐霊の高等部を直撃したのだった。

「に゛ぅっ!!!〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜・・・・」

というなんとも情けない叫びを上げて悶絶する。

「だっ・・・・・・大丈夫ですか月銀さん。」

「・・・・・・ボクはツキギンじゃなくて・・・・・・ツキガネです・・・・・・。」

そう答えるのが精一杯だった。

以上が+αのTである。




「月銀さんどうやら貧血みたいですね〜。」

意識がブっ飛ぶ程ひどいものらしかった。

これに関しては大豆だのレバーだのと食べればしぜんと直るらしいのだが、念のためということで

増血丸を一瓶渡された。ビンには『一粒で一日分の鉄分!!』とかよくあるフレーズが書かれている。

市販の薬じゃん とは敢えて言わないでおこう。

とにかく何であれ、結論をまとめると、『さっき倒れたのは貧血が原因だからこれを飲め』

ということである。


で、至る現在。

「月銀さん、体重を測りましょうね〜。」

まぁ、身体測定程度なら5分もかからないし、程度にしか考えていない狐霊は甘かった。

まさか5分の身体測定が狐霊を鳴かせる希望いっぱい夢いっぱいの

『パンドラボックス』であるなどと誰が想像できたであろう。

別に何に着替えることもなく体重計の上に乗る。

カラカラ・・・といって回るメーター。そこに書かれていた数値は



39,2kg

・・・・・・まぁ、三年間寝っぱなしでマトモに栄養とってないのは認めよう。

だが、高校男子1年生になる直前の人間が平均体重54kgから

15kgも足りていないというのは一体どういうことだろう。

看護士は狐霊の体重を見て、39,2kg・・・っと。まぁこんなもんですね〜。うらやましいなぁ。」

こんなもん!?と叫びそうになるのを必死で堪える。

そして最後の言葉がちぃっち引っかかるンだけど。

・・・・・・・・・・・・ん?『こんなもん』?『羨ましい』?

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・まさか、ね。

「次身長測りま〜す。」

狐霊はある不安ともいえる疑問を抱きながらも台の上に乗る。



スルスル〜と音を立てて降りてくるバーは、頭にチョンと触れたところで動きを止める。

看護士は数値を覗き込んでカリカリと紙に書き込んでいる。

「もういいですよ〜。」

といわれたので、台から降りる。そして、気になる自分の身長を見てみると、



148,3cm

「うぅ・・・低い。39kgの体重の理由がまるごと納得できちゃうじゃん。」

「そんなに落ち込まなくても、すぐに伸びるから平気ですよ。」

うぁ―――――――。その慰めの言葉が心に痛い。

「じゃぁ、次の測定ですので、こっちに来てくださ〜い」

あれ?まだ何か測るの?と思いながらも看護士の後をついていく。

最終的に行き着いたのは小さな個室だった。

棚や机には薬品がズラリと並べられている。診療室みたいな部屋だった。

と、ここで看護士はメジャーを持ってとんでもないコトをおっしゃりやがるのです。

「じゃ、バスト測りま〜す」

バストだと!?狐霊はギュバーと両手で胸元を隠す。

「いや!!いやいやいや!!!!待たれよ看護士サン!

何故にボクは測る必要のないトコロを測らなくてはならないのですか!?」

「必要なくても、測る決まりなんです。小さいのは分かりましたから、さっさと脱いでください。」



そうじゃなくて!何を勘違いしているのか知らないけど、

胸が小さいから測られたくないんじゃなくて、単に男だから測る必要がないだけなんだけど!!

と叫ぼうとしたのだが、それより先に看護師さんは狐霊のパジャマのボタンをはずそうと

手をのばしている。っていうか既に一番下のボタンが外されているッ!?

「待って!ホント待って!ってなんで待ってくれないの!」

看護士の手は尚止まらない。思ったとおりだ。

『こんなもんな体重』とか『羨ましい』とか言うとか思ってたらやっぱりこの看護士さん

ボクのことを女の子扱いしてるな!!!カルテはしっかり読もうよ!!

「看護士さん!今からでも遅くないからカルテを読んで!特に性別のトコロを!

ボクは女の子ではありません!!」

「えっ!そうだったんですか!?」

看護士の手もようやく止まる。危なかった。生き残ったボタンは一番上の1個のみだ。

「あの〜すみません。カルテには女性の方で丸がついてるんですけど〜。」

「何ィ!?(グギッ)〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ッ・・・」

ボタンを留めなおしている最中にそんなことを言われたものだから狐霊は首を捻ってしまった

ニブ〜くズキズキ痛む首を押さえて狐霊は悶絶する。

ゆっくりと顔を持ち上げ、狐霊は言う。

「この・・・・・・このカルテを作ったのは誰ですか・・・・・・?」

「えっと、すみません。このかるてずいぶん前に作られたものみたいでちょっと分からないです。」



「え゛〜。でもハンコも何もないんですか?」

とゆーかハンコのないカルテって有効だったっけ?

「あ、名前は書いてありますね〜。・・・『元気(もとき)』?」

「誰それ?」

看護士さんは首をかしげて真剣に考える。暫くすると、

「うーん。そんな人いたような気もするんですけど〜、性格な顔は思い出せません〜。

あ、でもでも特徴はなんとなーく思い浮かぶんで落ち込むことはありませんよ〜。」

別に誰が落ち込んで訳ではないのだが看護士さんは狐霊を安心させるためか必死に微笑みかけてくる。

だが、あまりにもピリピリしたわら氏の仕方なので、作り笑いだということがバレバレだ。

狐霊はふぅっと一息ついた。正直このかるてを作った奴を

吹っ飛ばしに行ってやろーかと思っていたのだが。ちょっと残念だ。

まぁ、何にせよ次に会った時が最期だ。

と思ったところで不意にポンッと音がなるのを聞いた。

音のなった方向を見てみると、何か思いついたらしい看護士さんがいた。

胸の辺りで左手の平を下に、その手の平の上に握りこぶしをのせるポーズをしており、

その表情は1週間続いた便秘がようやく解消された時のような清々しいものになっていた。

「思い出しました!えーと、たしかこのカルテを作ったのは

結構階級上の人だったような気がします。熟年の男の人!」

「結構大きなヒントだね。あとは体格やら何やら教えてもらえたら見つけやすいんだけどな。」



「体格は・・・イマイチわかりませんけど、

確かこの人は何か違う職についた方がそれっぽかったような!」

「・・・・・・うん?」

非常に心当たりのある人物が1名。次にとあるワードが出てきたらもう確定だ。

「えーとえーと〜〜〜〜〜・・・・・・・・・・・・パティシエ?」

決まりだ。

「どうも有難うございます。それだけ情報があれば多分そのうち見つかると思います。

・・・あとそのカルテの丸を男性の方に書き換えて置いてください。」

「・・・・・・」

看護士は何故だか黙って狐霊の方を見ている。

「あれ?何か顔についてます?」

「・・・せめて本当に男の子かどうか確認させてもらえません?」

狐霊はダッシュで逃げ出した。

以上が+αのパートUである。






で、至る現在。

ようやく10個目の検査が終了したところだ。




時刻は既にPM3:30だ。この調子だと全部の検査が終わるのは5時くらいになりそうだ。

ところで狐霊はというと、

(はぁ、早く家に帰りたい・・・・・・。)

軽〜〜〜くホームシックになっているのでした。


*    *


PM5:08. 狐霊はようやく検査という名の鎖から開放された。

カラカラ・・・という音を鳴らしながら点滴台が転がる。

狐霊は自分の部屋へ戻りながら、これまでの経緯を思い出していた。



「三年間眠りっぱなしだったというのに体に異常がまったく見られませんねぇ。」

30代前後の体格のいい男性は検査の結果に目を見張っていた。

それはそうだろう。こんな健康な重病患者なんてそうそういないのだ。驚くのは当然のことだ。

同時に狐霊も吃驚していた。まさか明日退院できるとは。

頭の中で何度も『早く家に帰りたい・・・』と連呼していたのが利いたのかな

とにかく、何にせよ明日には退院だ。狐霊の心はうれしさで満たされていた。

よーやくパティシエを吹っ飛ばせる。ふふふ・・・・・・

と何とも黒い笑みを浮かべる。周りの看護師さん達は全員同時にビクッ!

と震えるのだが、狐霊は気づかない。



と、不意に、本当に不意にとある言葉が頭に思い浮かんだからだ。

あの子狐の言葉。

『月銀さんですね?』

・・・・・・どうしてあの狐は狐霊の姓を知っていたのだろう。

(・・・やっぱ、コレ・・・かな)

そう思いながら、狐霊は自分の左の首筋を押さえた。


 

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