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3月28日AM7:10.規則正しく起床。

「・・・・・・んぅ・・・。」

今日は普段のように盛大にのびをすることができない。

左腕には点滴の針が刺さっている。まだ少し頭が働かないのかすごくとろ―――とした目をしている。

三年間眠っていたというのにまたよく眠れたものだ。

周りを見回すと当然だが病院の一室の姿がある。

ベッドの隣には台があり、上には見舞いの品のフルーツバスケットがどさりと置かれているが、

それは余計に殺風景さを増やしている。

狐霊はベッドからゆっくりと降りる。ベッドそのものはそんなに新しいものではないのか、

キシキシと小さく音を立てる。

今日はようやく家に帰れる日だ。記憶では家にいなかったのは1日だけだったのだが、

体が妙に帰宅を求めていた。狐霊はさえない頭を、眠気を払うために顔を洗いにトイレへ向かう。

貧血による眩暈が少し起こったが増血丸のおかげで大分ましなものになった。

廊下では看護士の人たちが既に忙しそうに歩き回っている。

トイレについた狐霊はそんな看護士さんを横目に顔に冷たい水をかける。

「んくっ。キッツいなぁ・・・。」

3月の水道水はまだ雪解け水みたいに冷たかった。目覚まし用にするにはちょっと早いくらいだ。

だが、おかげで一発で目が覚めた。冷たさを払うために顔をふるふると左右に振る。



その際、一緒に長い髪もバサバサと揺れて乱れてしまう。

狐霊はそれを見て鬱陶しそうに顔をしかめる。

なのでたまたま横を通りかかった看護士の人に、あるものがどこにあるのか尋ねた。

すると看護士さんは言うのです。

「女性のお手洗いはあちらですよ。」

「・・・・・・・・・(泣」

「え・・・えぇ?どうしたんですか?」

どうやら本気で看護士さんを困らせてしまったようだ。狐霊はさっと涙を拭いて、

「・・・ボクは女の子ではありません・・・」

と弱弱しく言ったのだった。

狐霊が欲しがっていたとある物というのは櫛の事だ。

寝起きだったので、髪の毛には寝癖もあった。

どちらにしても、櫛でとかす必要があった。

狐霊は頭のてっぺんからゆっくりと櫛をおろしていく。

その仕草は傍から見ると何とも艶かしく、また風情があるように思える。

そして、当の狐霊は何とも複雑な表情をしていた。

自分で自分が男に見えなかった。

・・・困るなぁ。と思ったところで櫛が狐霊の頭のてっぺんから下に下りようとした所で

ガリッ!



と何かを引っかいた。

「痛っ!」

あまり強くやったわけではなかったのでたいしたことはなかったのだが、

それでもまだズキズキした。不思議に思って鏡を見てみると、さっき櫛が通過したところが、

何か腫れていた。どのような感じかは銀の髪にうもれてわからなかったが、

おそらくはできものか何かがあるのだろうと思ったのだが、どうもおかしい。

[同じできものが左右退職にもう一つある]

可能性は0ではないが非常に珍しいケースだ。

まぁ、そんなに大きくないし、目立たないので放っておくことにした。

狐霊は髪をとかし終えたので自分の部屋へ戻った。

台を見てみると、既に病院製の朝食が置かれていた。

今日のメニューは 白米、味噌汁、鮭の塩焼き、ホウレン草のおひたし、梅干、ヨーグルトだった。

うん。典型的な朝食の姿ですね。バランスはいいけどお年寄りの人たちの喜びそうな組み合わせだ。

「いただきます。」

狐霊はハシをとり、はもはもと朝食を食べ始める。

所要時間は約5分。狐霊の朝食時間は終了

ところで、一日千秋の思いだ。ようやくこんな薬臭い部屋から抜け出せる。

だが、何故だろう。感情がうれしいと思うことができない。

むしろ、早く帰らないと大変なことになりそうな不安が狐霊を急かす。

そして同時に、今日は何かを失う予感がした。

あまり気にしていても仕方がない。そう思って狐霊はさっさと小雪が置いていってくれた、

(あ、そうだ。着替えたら母さんに電話しなきゃ。)

でも、もしかしたらもう着てるかもなー、と思ったところで

ガラガラ


と部屋の扉が開いてしまったのです。ちなみにそこにいたのは、

母、姉、友人の3人。扉に手をかけているのは友人でした。

・・・・・・・・・・・・

「部屋を間違えました。」

と、友人。

ガラガラ、パタン

「えっと、大丈夫よ狐霊。私たち二人は何も見てないからー。」

と母。

・・・・・・しまった。カーテンをかけとくべきだったなぁ。

パジャマはボタンが全部はずれている状態。別に男だから見られても問題ないのですが顔が顔だもんね

で、見られた当の狐霊は顔を若干赤くしてフリーズしているのでした。



少しずつ冷静さを取り戻していった狐霊は着替えを再開した。

着替えはベッドの下のカバンの中に入っている狐霊はあらかじめ開けておいたカバンの中から

着替えを取り出したのだが、


中から出てきたのは、カッターシャツだった。

・・・母さん、何で?

他に何かないのかと思ったのだが、出てきたのは普通のズボンだった。

狐霊はドア越しに母との会話を試みた。

「・・・母さんなんでこのカッターシャツ?」

すると同じようにドア越しに母の声が返ってきた。

「だって、時間なくなって適当に引っ張り出してきたものだから。何もないよりはマシでしょ。」

・・・・・・いや、だからってコレはないよね?といういぶかしげな目をそれに向ける。

このカッターシャツサイズが大きすぎる。これを狐霊が着るとなると、むしろ[狐霊が服に着られている]

という大変シュールな光景が出来上がってしまう。元の身長も小学生のものなので尚更だ。

仕方がないので、もうそのカッターシャツを着ることにしたのだが、ふっと視界の隅にある物が写った

それえはさっきのカバンだった。開いた口から覗く水色の布。見覚えのあるものだった。

しかし、それはあくまで目にしたことがあるまでで、実際には着たことはおろか

触れたことすらない。

狐霊は恐る恐るそれを手に取ろうと手を伸ばす。

それの触れた感触は、滑らかなさわり心地。触れていて悪い気分はしない。

着心地も悪くないであろうそれは、姉、唯衣のワンピース。(狐霊小学3年生時)

「・・・母さんこれはいったいどういうことなのかな?」

「あらあら?何がかしら?」

しらばっくれるつもりなのかなーといおうとしたところで第三者に発声権を先取りされた

「うん?ワンピースなら私だぜー。」

と姉の声。

いつのまにこんなことを

「姉さんはボクの事を男として扱う気はさらさらなくなってしまったのかな?」

それを聞いた唯衣はケタケタ笑い出した。そして実に軽薄な声で一言言ったのだ。

「いやいや、似合いそーな気がしたからだよ。どうだい、着てみる気はないかい?」

あいつは後で殴ることにしよう。

狐霊は黙ってカッターシャツ(巨大)を着ることにした。

(・・・・・・うーん、やっぱブカブカ・・・)

でもまぁ。ある程度袖をまくればどうとでもなりそうだ。使いでズボンも穿けば完璧だ。

「うん。もう入ってきていいよー。」

「ほーい。」

ガラガラと音を立てて開く扉。3人のうち一人はまだ赤い顔をしてそっぽを向いていた。

時々ちらちらと狐霊のほうへ目しか向けないのを見る限りコイツ相当照れてるな。

というか男としてもう接してくれないのかな。

透のそんな態度を見てちょっぴり悲しくなった。

フン、いいさ。何とでもなる(はず)なんだから。

「えっと、そろそろ透はボクを直視できるようにならないのかな?」

「・・・・・・いや、だってよぉ・・・・・・ムリだろ。」


確かに透の言うことももっともだ。まず第一に元々あまり女性に耐性のない透だ。

それなのに(事実は男だといえ)見た目結構な美少女(ある意味幼女)の狐霊の

着替えの最中に出くわしてしまったのだ。この結果は当然といえば当然である。

「じゃあ、そのままでいいです。」

狐霊は諦めることにした。

「で、本題だけど、」

「おっと待った。私を殴ろうとするのはやめたまえよ。」

行動に移る前に腕をつかまれてしまった。のんきな顔してカンが鋭い。

仕方ない。狐霊は姉を殴るのを諦めた。何か最近諦めるの多いなぁ。

「さ、じゃあそろそろいきましょうか。最後に院長さんに挨拶くらいはしていかなきゃ。」

「うん。」

狐霊はあくまで平然と応えた。ちなみに、3人は裏にある狐霊の陰謀をしらない。

暫くして、病院内にパチーンと痛快な音が響き渡った。

 

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