ー2ー

 

狐霊は自転車を飛ばしていた。集合時間があと5分をきっていたからだ。




まぁ、神社は自転車で1分のところにあるので急ぐ必要性は皆無なのだが。

ちなみに、遊ぶ場所がなぜ公園や空き地でないのかというと、狐霊の街には公園も空き地もないからだ。

よって、唯一の遊び場所が神社なのである。

ひたすら自転車をこぐと、すぐに神社は見えてきた。

自転車を最寄の駐輪場に止めると、狐霊は一気に20段くらいの階段を上っていった。

神社の名前は六ところ神社という。この街比良では年に3回程祭りがひらかれる。

そして、その祭りがひらかれるメイン会場となるのが、この六所神社である。

笛や太鼓を叩くのは基本的に子供達の役目で、その子供の平均年齢は9歳である。

氏子である狐霊は当然のように参加させられる

だが、年齢層が浅いからといって侮ってはならない。

その子供たちは週に3,4回1時間の練習をしている。その為、祭りはかなり本格的なものとなる。

屋台を出せる程広くないのが、残念極まりない。しかし、

屋台は出せなくとも、普段遊ぶのには十二分の空間である。

一応、敷地内にある2つの祠と、中央にでかでかと建てられた大きな社に接触さえしなければ、

何をしてもいいことになっている。

ちなみに、この神社に何が祭られているか知っている人はもうほとんどいないという。

狐霊は鳥居をくぐると、そこには既に人がいた。

「遅いぞ、狐霊ぁ―!!」

いきなり怒声を浴びせられるとは思わなかった。



「まだ9時57分じゃんか。」

「ウルセェ。全てにおいて、5分前行動は人としての基本だ!

2分間も余分にたち続けた俺の身にもなれ!」

「はいはい。」

「はいは一回」

「はいはい。」

「ヌゥアァァァァ――――!!ホントお前って朝キゲン悪りぃよなぁ。」

「ボクも貴方とは係りにくいと常に思っています。あまりテンションを上げないでください。」

普段の狐霊はここまで冷静な性格ではないが、彼、三島透の前では氷の性格を装っている。

そうすれば、透のテンションも自然地と下がるからである。

当の通るも、自分がなぜ冷たく当たられるのか、理由はわきまえている。

「ところで、ボクは何故神社に呼ばれたのでしょうか?」

狐霊がこのような質問をするのは、遊びが目的で神社に来たわけではないからだ。

お親や姉に『遊びに行く』 と通知したのは、正直なトコロ、ウソだ。

透と遊んでケンカにならなかったことは、これまでで一度もない。

なので小雪は狐霊が透と会うのを好まない。今日透と会っているのは、母の目を盗んでのことである。

一言で称するならば、”密会”だ。

ケンカになっても、大丈夫。狐霊は透とのケンカでは腕でも口でも負けたことはない。





「まぁ、後のお楽しみだぜ。ついてこい。」

そう言われて付いて行こうと思ったが、三歩歩いたところで止まった。

「言うほど歩いてないですね。」

「うるせぇ。バツだバツ。」

そう言って、彼の立っている場所は、大きな社の前だった。

イヤな予感、後質問。

「まさか・・・これを開けると?」

「その通りだ。」

「待った。そもそも、ボクがバツを受ける理由が分かりません。」

「あァ?とぼけるな!忘れたとは言わせねぇぞ!1週間前のコト!!」

(一週間前・・・?)

ここまで考えてハッとした。イヤな予感その2

「アレですか・・・?まさか、アレですか・・・?」

一つだけ心当たりがある。一年に一度学校の全生徒が行うという比良小学校最大のイベント

[おゆうぎ大会]

6学年で集まって劇をするだけなのだが、優秀なクラスには、商品が与えられるので、

かなり熱気のこもった劇となる。

その劇の最中、透は盛大にコケるというミスを犯したのだ。

当然そのミスのおかげで流れる水のように手をすり抜けてしまったのだ。



ちなみに商品はコーラ。一人一本分ありました。(500ml)

さらに透以外知る人はいないが、コケる原因を造ったのは狐霊だったりするのだ。

狐霊は恐る恐る透に質問してみた。

「・・・・・・[おゆうぎ大会]のコト、まだ恨んでるの?」

「悪かったな、執念深くて。」

「い・・・いやいや、そういうことを言いたいんじゃなくて。」

「黙れ。いいから早くこの社の扉を開けろ。コケた原因がお前だったことをバラされたくなかったらな」

珍しく冷酷な言葉を使う透。おそらく相当キレているのだろう。

今まで透のこんな姿を見たことのない狐霊はすくみあがってしまった。

恐怖に煽られるまま、

「はい・・・。」

と力無く答えてしまう狐霊だった。

「ところで、何でまた社の扉を開けろと?」

「そりゃぁ、中身が見たくなったからに決まってんじゃぁねぇか。もう、何が祭られている分からない、

詳細不明の神社の社。大人でさえ、知っている人はもうほとんどいないというウワサもある。

とういうことは、人に聞いても分かる可能性はもうないと考えてもおかしくない。

だったら、もう自分の目で確かめるしかないだろう?」

「で、社を開けてもしもバレたら起こられることになる。でも、どうしても中が見てみたい。

だから、この機会を利用して、ボクに扉をあけさせようとした、と。」



「その通りだ。さすがは情報処理検定資格保持者、月銀狐霊クンだ。理解が早くて助かる。」

狐霊は

「はぁ・・・。」

とため息を吐いた。

「仕方ないなぁ。開けてやるよ。」

「おう、頼んだぜ。オレはそこの陰に隠れてるから。」

そういって透はささっと木々の後ろへ隠れた。狐霊は

「はぁ・・・。」

と、また1つため息をついた。

「鬱だなぁ・・・・・・。」

と、ぼやきを入れて、扉に手をかけたその時、

ゴトリ

「!!」


「おい!どうした狐霊ー!?さっさと開けろよ!」

狐霊は全身からイヤな汗が出るのを感じた。今日2回あったイヤな予感も可愛らしく思える程、

壮大な威圧感が漂ってくる

「・・・中に・・・何か・・・いる・・・・・・?」

手が動かない。中を見たくない。見てはならない。という恐怖感が、

手のひらを壁に縫いつけた状態のように固定する。


(何か、知っている気がする。中にあるモノ・・・1度見たことがある気がする・・・。)

狐霊に恐怖に打ち勝つ悠樹が生まれた。気が変わらない内に一揆に扉を開け放った。

ビュオォォォ・・・・

と風が吹き抜ける。

中は暗かった。長い間使われなかった為か、ホコリっぽい臭いが充満していた。そして、もう一つ。

金属の、硬質のようなニオイ・・・・・・

最初は、周りの壁の装飾の臭いかと思った。

しかし、すぐにその考えは捨て去った。壁は燦然と耀く金色をしていたが、

金はこのような臭いを発する金属ではない。

哲の臭い、というのは一番妥当なところだろう。

床に垂れている赤い液体が正体を決定付けた。

・・・血だ。

狐霊は床の血に触れてみた。ドロリと強い粘性が糸を引く。

まだ新しい。と、ここで透が入ってきた。心配になったらしい。

「お・・・おい、狐霊。い・・・一体何があったんだ?」

「分からない。だけど、臭いでこの奥に何があるか。大体は想定できるよね?」


「血・・・か。なるほどな。と、いうことは、中にあるのは、ケガした誰かさんかな。

血はまだ新しそうだ。クソ、我ながらこんなに冷静に判断できるなんて、恨めしいぜ」




「[ケガした誰かさん]・・・だといいけどね。」

「あん?どういうコトだよ。」

「この血の量、・・・・・・尋常じゃないよ。場合によっては、中にいるのは・・・死体かもしれない。」

「クッ・・・」

「とにかく、いつでも警察を呼べる準備は必要だと思う。」


「あぁ、何なら今からでも呼びに言ってやるよ。」

「うん、お願いするよ。」

言うと、すぐに透は社を出て行った。

(さて、と・・・)

狐霊は血の先を再び見やった。覚悟は、できた。

(場合によっては、同時に犯人も発見するかもしれない。透を社から遠ざけたのは正解だったな。)

しかし、透が行ったであろう警察署はそんなに離れてはいない。

早いうちに仕事は片付けてしまった方が無難だ。

狐霊は、できるだけ急いで、奥へと向かっていった。一歩歩くたびに、床がミシミシと悲鳴を上げる。

進む内に血の匂いが濃くなってきた。

(この出血量は、ただの人だったら、もう生きている保障はないな。)

確信できた。もうこれ以上進む必要はない。優秀な能力を持っていようとも、狐霊はまだ小学生なのだ。

その目に生の死体を映さすのはいささか刺激が強すぎる。」

そう思って血溜まりに背を向けた。ところが再び


ゴトリ・・・

という音がした。

「な・・・・・・!」

狐霊は驚いて振り返った。しかし、そこにあるのは血溜まりだけだ。

生き物の気配はまったく感じ取れない。

「・・・・・・?」

周りを見回してみるが、別に不自然なところなど見当たらない。

(な・・・何が、一体・・・?)

ゴトリ

「うあっ!」

どうやら、音は気のせいではないらしい。

「だ・・・誰だ!」

叫びながら、狐霊はすり足で少しずつ後ずさりしてゆく。

相手はもしかしたら、この惨事を作り出した張本人かもしれないのだ。

油断はできない。ある程度明かりの差し込む所まで来たところで、狐霊はいったん足を止めた。

(追ってきていない・・・?)

目の前に広がるのは暗い闇のみだった。と、思っていたのだが。

それは突然、狐霊の目の前に姿を現した。

[それ]は人ではなかった。小さな身体、耳、尻尾。



月の光を彷彿させるような銀色の毛。一見すると犬のように見えるその姿は、

いまや古くなってドス黒くなった血と新しい血にまみれてみるに耐えない状態となっていた。

銀狐

夢で見た物とまったく同じ姿の銀狐の子狐がそこにいた。

「ッ・・・・・・・・・!」

狐霊は驚きが大きすぎた為、声を出すのもままならなかった。

子狐はゆっくりとふらつきながら、狐霊の方へ寄ってくる。

「う・・・・・・え?」

狐霊は後退しようとした。が、何故だか身体は動かなかった。

恐怖で足がすくんでしまったわけではない。

ただ、本当に純粋に体の筋肉が脳から電気信号を受け付けなかった。

そう、まるで金縛りにでもあったかのように。

この狐が何かしたのか。正体は不明だったが、尚、狐は少しずつ狐霊との距離を縮める。

「うわぁぁぁああぁ!!」

今度こそ恐怖で足がすくみあがった。

力がまともに入らなくなった足は、そのまま床にくずれる。

狐霊と狐の距離は既におよそ20m。狐霊はどうすることもできず、ただその場で動きを止めた。

そして、暫くすると、

『・・・・・・・・・・・・』



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・え?

不意に声が聞こえてた。

『・・・ね・・・ざ・・・ですね?』

少しずつはっきりとしてくる声。

『月銀さん、ですね?』

透き通った女性の声。幼さのほのかに残るその声は、空気を介して伝わっていない声。

脳に直接伝わって来る声だった。

狐霊は恐る恐る聞いてみる。

「あなた・・・は・・・?」


『質問に答えてください。月銀さんですね?』

「・・・・・・・・・はい。」

『そうなのですね?では、勝手ながら今から私の要望に応えていただきたいのですが。』

何?と狐霊は思った。

「要望?」

『はい。私の要望です。』

どういうことだと思いながらも狐霊は質問してみる。

「止血とか消毒とかの応急処置をしろということ?」

『はい。性格に、具体的に説明させて頂きますと、私の生命維持装置として月銀さん。

あなたという個体を使わせて頂きたいのです。』


・・・・・・・・・・・・・・・・・・はい?

「え?それってつまり」

『私には時間がないのです。いくら私といえどもこの出血量では数分後には死体となるのは

確定事項といえます。どうか、あなたの力を貸してください。』

「う、え、は・・・はい。」


あまりに切羽詰まった物言いに気おされてつい承諾してしまった。

そしてそ言葉を言った瞬間に狐霊の人生は大きくレールの上から脱線したのだった。

『契約終了。では。』

狐がそういったのと同時に狐霊の腹部に強烈な鈍い痛みが走った。

耐えられず、その場に倒れ伏せる狐霊。

朦朧とする意識の外に語りかけてくる人がいた。

「狐霊!狐霊!!コダマ!!!何だよ!何があった!

チクショオ、警察の次は救急車の方が必要ですってかぁ?」

狭い視界の中に彼はいた。

「・・・・・・とお・・・・・・るぅ・・・・・・。」

狐霊の意識はそこで、途切れた。

 

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